コラム

【法務コラム】介護サービスの苦情申し立て

2020年01月17日

厚生労働省の介護保険事業状況報告によると、2019年3月末時点での要介護・要支援認定者数は658.2万人とのことで、65歳以上の18%ほどが要介護・要支援認定を受けています。

ご自身やご家族が介護サービスを利用している中で、介護事業所へ疑問や不満を持ったとき、どこに相談・苦情申立をしたらよいのか、悩むことがあるかと思います。

そもそも、相談・苦情申立をすることについて躊躇を覚える方もいるのではないでしょうか。
苦情を申し立てたらもっとひどい事態になるのではないか、文句あるんだったら契約止めてもらって構わないと言われるのではないかなど、考え出すと不安ばかりが募ります。
実際、事業所の苦情処理体制が機能しておらず、事態が改善されないことも見聞きします。
内容によっては、しばらく様子を見ようという結論を出すこともあると思います(その場合でも、いつ、何があったかはメモしておきましょう。)。
でも、指摘しなければ、こちらが何を不満に思っているか事業所に伝わらないことも事実です。要望なきところに改善なしです。

同じ事業所を今後も利用し続けるのか否か、苦情の内容が生命身体に重大な影響を及ぼすものなのか否かによっても、取る手段は変わってきますが、疑問・不満を、どのタイミングで、誰に言うか、何を要望するのかを考え、整理しておくことは大切なことだと思います。
そこで、「誰に言うか」の部分に関し、私見含めて以下にまとめてみました。

その1 職員に気軽に質問する
ちょっとした疑問や不満であれば、直接、質問してみることで十分な場合もあります。
ささいな誤解や行き違いが原因のこともあるからです。
事業所も人によって運営されていて、人にはそれぞれ癖や傾向があります。
その人の癖や傾向をつかめれば、こちらから予防線を張ることが可能なこともあるかもしれません。

その2 友人知人に話す
話のできる友人知人がいれば、「ねえねえ、ちょっと聞いてよ。」も効果的です。
同じような経験をした人がいれば、経験談を聞くことで参考にできますし、第三者に話すことで事実整理や気持ちの整理がつくこともあります。

その3 ケアマネに相談する
ケアマネは事業所との連絡調整を行うことも業務なので、ケアマネに間に入ってもらうこともできます。
ただ、ケアマネが当該事業所(同法人)の従業員だと、直接事業所に言うのと同じことです。

その4 事業所内の相談窓口
契約時に渡された重要事項説明書を見てください。
相談苦情申出窓口が記載されています。
相談苦情申出窓口は、内部と外部があります。
内部だと、施設長や生活相談員などが相談苦情申出窓口に指定されているので、この人に相談しましょう。
入所施設では投書箱を設けているところもあります。

その5 外部の相談窓口
重要事項説明書を見てください。
外部の相談苦情申出窓口として、①第三者委員、②市町村・県、③宮城県国民健康保険団体連合会の苦情相談窓口、④宮城県社会福祉協議会の運営適正化委員会が記載されていると思います。
③④はなじみのない団体かと思いますが、私見ですが③はお勧めします。
相談だけでも構いません。
正式に苦情申立・受理となると、事業所に赴いて丁寧に調査し改善提言を出しますし、事案によっては市町村や県とも連携し、必要な情報のやりとりをしています。
ただ、あくまでサービスの向上、再発防止を目的としているため、事業所の責任を追及するなど、将来的な訴訟等の資料集めのために利用することは予定されていません。
④も③と同様の業務を行っています。
③との違いは、③が介護サービス(高齢者)の相談苦情窓口であるところ、④は障害者のサービスについても相談苦情窓口になっていることと、④にはあっせんという制度があるということかと思います(あっせんがどれほど利用されているのかは分かりませんが)。

その6 その他
虐待に関する内容であれば、高齢者虐待通報窓口があります(市町村の介護福祉課や地域包括支援センターなど)。
弁護士も、お話をうかがって問題事項を整理したり、場合によっては代理人として事業所とやりとりするなど、お力になれることがあると思います。

最後に
宮城県国民健康保険団体連合会HPに相談や苦情の内容が掲載されています。
これを読むと「いろいろあるなあ・・・」と思いますが、これも氷山の一角でしょう。
https://www.miyagi-kokuho.or.jp/kaigo/ku_sabisu.html

以上
(弁護士 橋本治子)