コラム

【法務コラム】「衆議院解散」 

2021年10月25日

岸田首相は、10月14日に衆議院を解散し、19日に衆議院の総選挙が公示され、31日の投開票に向けて選挙戦がスタートしました。 今回の解散は、首相就任からわずか10日後という異例のスピードでの解散が決まったということもあって、メディアでも大きな注目を集めました。 そこで今回は、「衆議院の解散」について解説します。 

 

まず、どのような場合に衆議院は解散し、総選挙が行われるのでしょうか。
衆議院の総選挙が行われるパターンは2つあります。1つは衆議院が解散となった場合に行われるもの、もう1つは衆議院議員の4年間の任期が満了する際に行われるものです。
普段私たちは「解散総選挙」とセットで呼んでいますが、法律上は「解散総選挙」と「任期満了総選挙」の2通りがあることになります。 

ただ、戦後24回の総選挙が行われた中で、任期満了総選挙が行われたのは昭和51年の1回だけで、ほかの23回はすべて、解散による総選挙が行われています。
解散のタイミングはその時の政権によってバラバラですから、オリンピックなどのように決まった時期に行われるわけではありません。 

 

では、衆議院の解散はどの機関が、どのようにして決めているのでしょうか。
そもそも、衆議院の解散は、内閣の助言と承認のもとで天皇が行う日本国憲法7条に定められた国事行為です。
したがって、衆議院を解散する権限は内閣が持っているといえます。

解散権が内閣に属することから、内閣を構成する閣僚が全員賛成しなければならないようにも思えますが、その必要はありません。 

日本国憲法第68条第2項は「内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる」と定めています。
つまり、内閣総理大臣は「任意に」、つまり時期や理由を問わず法的には何らの制約なく自由な裁量によって国務大臣を罷免することができるため、国務大臣が衆議院の解散に反対して閣議書への署名を拒否する場合、内閣総理大臣はその大臣を罷免して自分が大臣を兼任するか他の大臣に兼任させることで閣議決定を行うことができます。 

このように、内閣総理大臣は事実上、自分の意思だけで衆議院の解散を実現させることができることから、衆議院の解散権は内閣総理大臣の「伝家の宝刀」として事実上その専権に委ねられているといえます。 

 

実際の衆議院を解散すると決まった場合、憲法上、解散は天皇が行うということになっており、解散が決まった場合には、皇居で解散の詔書というものがつくられます。
この詔書の中身としては「憲法第7条により、衆議院を解散する」とだけ書かれています。
この詔書が内閣を経て衆議院議長に渡され、衆議院議長が国会において詔書を読み上げた瞬間に、衆議院が解散される、という段取りになります。
 

よくこの読み上げの後に議員さんたちが万歳をするシーンがテレビで流れますが、あの万歳は法的な根拠があってやっているものではありません。
ただ、記録によると明治時代から行われており、いわば慣習として定着しているようです。 

ちなみに、先ほどお話しした通り、法的には衆議院議長が詔書を読み上げた瞬間に衆議院が解散され、議長を含めた衆議院の議員全員が失職します。
つまり、議員さんたちは万歳をしている瞬間にはもう議員さんではなく、議員だった人、ということになります。
この万歳が終わった後、(前)議員さんたちが議場を出ていくのですが、警備員の方々も、このときには敬礼をしない、という慣習になっているようです。
 

 

また、衆議院の解散には通称、というかキャッチフレーズが付けられるという、ちょっと面白い特徴があります。
有名なものとしては小泉首相のときの「郵政解散」、前回の解散時には「国難突破解散」という通称が付けられたようですが、通称として最も有名なものは、昭和28年の吉田茂首相による「バカヤロー解散」が挙げられます。 

これは、吉田首相が国会での質疑応答中に、「バカヤロー」と発言したことがきっかけとなって行われた解散です。
この通称に関しては、吉田茂が国会で「バカヤロー」と絶叫したかのような印象を持たれる方も多いかもしれませんが、実際には、答弁中に小さい声でボソッと言ったのをマイクが拾って大騒ぎになった、ということのようです。 

今回の解散にはいったいどのような通称が付くのでしょうか。
私たち有権者としては、どのような通称が付くか楽しみにしつつ、各候補者、政党の方針をきちんとチェックし、よく考えて一票を投じたいものです。

(弁護士 渡邊弘毅)