コラム

【法務コラム】買った中古車が引渡し前に雷で焼失しても代金は支払わないといけない!?

2021年04月27日

気に入った中古車を見つけて買ったが、引渡しを受ける前に雷が落ちて焼失したら、買主は代金を払わなくてもよいのでしょうか?

これが新車であれば、売主は代りに同じ車種の新車を引渡すことになりますが、中古車の場合はその個性に着目した特定物であるため、同じ物を引渡すことが不能になります。
引渡しが不能になった場合、不能が売主の責任であれば、そのリスク・危険は責任のある売主が負担するのが当然で、売主は買主に代金を請求できなくなります。
では、不能が売主の責任でない場合は、そのリスク・危険は誰が負うのでしょうか?

これは、中古車だけでなく、中古や特注の機械、建売住宅等の特定物について、雷等の天災や追突事故のような第三者の行為で、売主に責任がなく引渡しが不能となったら、
代金は請求できるのかどうか、不能の危険を売主・買主のどちらが負担するのかという問題で、危険負担の問題と呼ばれています。

常識的に考えれば、物の引渡しが不能となった場合は、引渡しを受けていない買主は代金の支払わなくともよいと思えます。

しかし、2019年7月時点で適用されている民法では、特定物については、売主の責任ではなく引渡しが不能となったときは、
その危険は引渡しについての債権者である買主が負担するとされており(特定物についての危険負担の債権者主義といいます)、
買主は、代金を支払わなければならないと定められているのです。

ただ、通常の契約では、それでは買主がかわいそうだということで、特約で引渡しまでは売主が危険を負担する、
つまり引渡し前に破損、焼失等で引渡しが不能となったら売主は買主に代金を請求できないと定めていることが多いため、
物の引渡しを受けられないのに買主が代金を支払わされるような悲劇が防がれていたのです。

今回の民法の債権法の大改正では、特定物の危険負担について、世間の常識に合わせて債務者である売主が負担する債務者主義に改正されました。
そのため、改正が施行される2020年4月1日以降の契約では、前記のような特約がなくとも、物の引渡しを受けられない場合には、買主は代金の支払いを拒否できることになったのです。

しかし、それまでは契約書チェックでは重要なポイントですので、御注意下さい。

官澤綜合法律事務所では、契約書チェックにも力を入れておりますので、気になるときにはお気軽に契約書チェックをご依頼戴ければと思います。

また、民法の債権法改正や相続法改正などについてのセミナーも定期的に開催しておりますので、関心のあるテーマの際にはぜひご参加戴ければと思います。

(弁護士 官澤里美)
※この記事の内容は、当事務所のメールマガジン2019年7月号で配信した記事と同一の内容です。